激安ツアーの罪と罰


私は、旅行業界の周辺に生息してきた。添乗員やガイドというのは、旅行会社そのものに所属した社員でないので、自社の目の前の利益を上げることから少し、距離をおいてツアーを見ることができる立場にいるのかもしれない。ある意味では無責任な意見かもしれないが、パッケージツアーの流れを見ていて思うことを述べたい。
2002/09/16

海外旅行の推移
1964年、海外旅行が自由化された時、海外渡航者数は、13万人足らずだった。初の主催旅行といわれるJTBの欧州17日間のツアー価格は、大卒初任給が、1万1千円だった当時で、71万1千円。現在の価格にして1000万円近いという。それほど高価だった海外旅行も、1970年代前半に、日本の空にジャンボ機が登場し、大量輸送の時代を迎えると、マーケットは一気に広がった。1978年には、成田空港が開港し、旅行会社は、各種ツアーを販売し、旅行業界は、常に右肩上がりの成長を遂げた。私が、1980年代前半、添乗員として働いていたころには、全食事付のヨーロッパ10日間のパッケージツアーの価格は、30万円を切るようになっていた。
私は、1986年に渡独し、学生の傍ら、現地ガイドとして仕事を再開したが、仕事は断るのが大変なくらい好調に依頼がきた。バブル絶頂期のことだ。

ツアーの現実
1990年、日本人海外渡航者数は、1千万人を超えたが、現地にいて、旅行手配の無理・矛盾をひしひし感じた。ツアー費用を低く抑えようとすれば、郊外にホテルをとり、缶詰スープに始まる食事を出すしかない。ドイツのレストランのレベルが低いのでなく、1200円足らずで、コース料理が出せるはずがない。ライン川下りの後、ロマンチック街道中のローテンブルクまで、その日のうちにバスで走ってしまうという強行スケジュールに、参加客は、くたびれはててしまう。
しかし、忙しいツアーほど人気が高い。旅行は、見えない商品だ。パンフレットの美辞麗句にのせられて、あれこれ観光したいというのが人情で、旅行を申し込むとき、どれだけ疲れるかなど考えに及ばない。激安ツアーは、ツアーの価値を、価格でしか評価しないという価値観を植え付けてしまった。

薄利多売への道
旅行業界の脆弱さは、バブル崩壊時にあらわになった。私自身も、仕事をもらっていた旅行社が、あっけなく潰れるところをまのあたりにして驚いた。(ガイド料未払いに大いに苦しめられた。)それでも1990年代前半は、各旅行社は、安売り合戦に血道をあげる。薄利多売の業界として「儲からない仕組み」の体質は、定着してしまった。海外パッケージツアーを販売しても、一人、何千円の利益すら出ないこともある。

淘汰の時代へ
旅行会社は、航空会社の戦略に飲み込まれて、安い仕入れをすることだけに躍起になって、良心的なツアーを提供しないという「罪」を犯すことになった。利用航空便、利用ホテルの確定にかける見えない努力と経費を、どうせ客は理解してくれないのだからと、不安定要素を残したままツアーを出発させてしまう。トラブルが発生したら、場当たり的に対応することで、危機を切り抜けようとする。顧客不在のツアーの乱売で、各旅行会社は、現在互いに首をしめあい、収益の悪化という「罰」を受けている。そして、ついには廃業に追い込まれるところも続出している。旅行業界は、激しい淘汰の時代を迎えているのが現状である。

専門性のある旅行業者へ
旅行社は、本来「お金に換えられない」感動や安らぎ、癒しといったものを与えてくれる「旅」を提供してきたはずで、本来の旅の意味や役割に立ち戻り、顧客をつかむには、どうしたらいいだろうか?
ある意味で、わがままで、したたかになっている顧客は、「自分らしい」個性を生かした旅を望むようになっている。その欲求に応えていくために「専門性」を極めるということが、一つのキーポイントだと思う。それには、多くの社員を抱え膨大な固定経費がかかる大手旅行業者より、小規模旅行業者の方が、人件費を抑え効率よく、しぼったマーケットに営業活動ができ、専門性を打ち出すのにマッチする。

その際に、ホスピタリティあふれるコンサルティング力こそ武器になる。「企画、販売、添乗」までをトータルに把握できる旅行のプロの育成が必要だ。インターネット版がいかに普及しても、後ろに控える「人」の存在が、やはり重要となってくる。個々のコンサルティングから、主催旅行の集客につなげていこうとするなら、一つの方策として、顧客を、旅行前・後から、とりこんでいこうとする試みが効果を発揮するかもしれない。

旅を通じてのコミニュティ形成
ツアー参加者の声に「どんな人と一緒になるかが不安」というのが結構ある。旅行会社が、小さなサークル活動のようなイベントを企画・運営し、旅行以前に、旅行参加希望者を、顔見知り以上の旅の友にひっぱていくことができれば、
旅行はスムーズに運ぶ。旅の楽しさや思い出を語る交流の場をつくっていくことは、リピーター管理の上でも役にたつだろう。近畿日本ツーリストの「クラブツーリズム」は、この旅仲間のコミニュティ化に先鞭をつけたと思う。

ターゲットになるのは、ズバリ経済的・時間的余裕のある熟年層だ。顧客の開拓は、いつも旅行業者の悩みだが、SOHO型の超小規模の旅行業者でも、インターネットを活用しチーム化していけば、新たなる可能性を模索していけるのではないだろうか。

激安ツアーを生み出してきた罪と罰にあえぐ旅行会社は、デジタル化の波にあってやはり、ヒューマンな対応をして良心的な旅作りをしていくことでしか、この厳しい時代を生き残れないだろう。



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